企業研究レポート
株式会社かんぽ生命保険
JAPAN POST INSURANCE Co., Ltd.
作成日:2026年4月17日
1. 企業概要
株式会社かんぽ生命保険(以下、かんぽ生命)は、日本郵政グループの中核企業の一つであり、生命保険事業を専業とする日本最大級の生命保険会社である。2007年10月の郵政民営化に伴い、旧簡易生命保険事業を承継する形で営業を開始し、2015年11月に持株会社の日本郵政とともに東京証券取引所に上場した。現在は東証プライム市場に上場している。
全国2万局を超える郵便局ネットワークを最大の販売チャネルとして活用し、都市部から地方の隅々まで「あまねく」生命保険サービスを提供できる点が他社にはない最大の特徴である。
基本データ(2025年3月期時点)
| 項目 | 内容 |
| 商号 | 株式会社かんぽ生命保険 |
| 英文社名 | JAPAN POST INSURANCE Co., Ltd. |
| 本社所在地 | 東京都千代田区大手町二丁目3番1号 大手町プレイスウエストタワー |
| 設立 | 2006年9月1日(営業開始:2007年10月1日) |
| 代表者 | 取締役兼代表執行役社長 谷垣 邦夫 |
| 資本金 | 5,000億円 |
| 従業員数 | 18,427名(2024年3月31日現在) |
| 上場市場 | 東京証券取引所プライム市場(証券コード:7181) |
| 親会社 | 日本郵政株式会社(議決権比率:約49.9%) |
| 事業内容 | 生命保険業(個人保険・個人年金保険等) |
2. 沿革
かんぽ生命のルーツは、1916年(大正5年)に逓信省で開始された簡易生命保険事業に遡る。約100年以上にわたる歴史の中で、国民の生活保障に貢献してきた事業を、民営化を経て民間生命保険会社として承継・発展させた経緯を持つ。
| 年 | 主な出来事 |
| 1916年 | 逓信省により簡易生命保険事業を開始 |
| 2006年 | 民営化準備会社として「株式会社かんぽ」を設立 |
| 2007年 | 郵政民営化に伴い「株式会社かんぽ生命保険」に商号変更し営業開始 |
| 2014年 | 新型学資保険「はじめのかんぽ」を発売 |
| 2015年 | 日本郵政とともに東京証券取引所第一部に上場 |
| 2019年 | 不適切な保険販売問題が発覚、社長辞任 |
| 2019年 | 金融庁より業務停止命令・業務改善命令を受ける |
| 2021年 | 中期経営計画(2021〜2025年度)策定/自己株式取得により日本郵政の議決権比率を50%以下に低下 |
| 2022年 | 東京証券取引所プライム市場へ移行 |
| 2024年 | 中期経営計画見直し/大和アセットマネジメントへ出資(10月払込完了) |
| 2025年 | 次期中期経営計画の主要施策(骨子)を日本郵政グループとして策定 |
3. 経営理念・ビジョン
経営理念
かんぽ生命は「『かんぽらしさ』を発揮し、社会的使命を果たすことで、『あたたかさ』の感じられる生命保険会社を目指す」ことを掲げている。地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指すとともに、経営の透明性を自ら求め、社会と地域の発展に貢献することを基本姿勢としている。
目指す姿
『お客さまから選ばれる真に日本一の保険会社』を目指している。全国津々浦々の直営店と郵便局ネットワークを通じて、保険による安心をお届けし、お客さま一人ひとりの人生を「保険」の力で守り続けることを使命としている。
中期経営計画(2021〜2025年度)の基本方針
● 再生:かんぽ商品の不適正募集問題を踏まえ、お客さま本位の業務運営を徹底
● 持続的成長:あらゆる世代の保障ニーズに応える保険サービスの充実、デジタル活用によるマルチチャネル化
● 再生と持続的成長のための土台作り:ガバナンス強化、企業風土改革・働き方改革、サステナビリティ経営
● 資本政策:ERMに基づく財務健全性確保と安定的な株主還元
4. 事業内容
主要商品
かんぽ生命は個人保険・個人年金保険を主軸に展開している。商品構成は大きく『貯蓄性商品』と『保障性商品』に分けられる。
● 終身保険:一時払終身保険を中心に近年販売を強化
● 養老保険:かんぽの伝統的主力商品で、満期保険金と死亡保障を兼ね備える
● 学資保険「はじめのかんぽ」:子どもの教育資金準備のための代表商品
● 医療特約「その日から」:入院初日から保障する第三分野商品
● 個人年金保険:老後の生活資金準備をサポート
販売チャネル
かんぽ生命の最大の特徴は、日本郵便が運営する全国2万局超の郵便局ネットワークを主要販売チャネルとしていることである。これに加え、自社の直営店(全国約80拠点)も保有している。郵便局のネットワークは民間生保では到底構築不可能な広範囲をカバーしており、特に地方や高齢者層への到達力は他社の追随を許さない。
資産運用
総資産の大部分を国債を中心とする有価証券で運用しており、安定運用が基本である。近年は低金利環境下での収益力強化を目的に「収益追求資産」(外国債券、株式、オルタナティブ投資等)の比率を高めてきた。また、2024年には大和アセットマネジメントへ出資し、運用力強化と運用高度化を進めている。サステナブル投資の取組み(インパクト『K』プロジェクト)も強化している。
5. 業績・財務状況
直近の業績ハイライト
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期(予) |
| 経常収益 | 6兆7,441億円 | 6兆1,300億円 | 5兆7,400億円 |
| 経常利益 | 約2,000億円 | 約1,702億円 | 2,600億円 |
| 当期純利益 | 約870億円 | 約1,234億円 | 1,590億円 |
| 総資産 | 約60兆円 | 約59兆円 | - |
| EV(エンベディッド・バリュー) | 3兆9,650億円 | 3兆9,400億円 | 4兆3,438億円 |
| 1株当たり配当金 | 94円 | 104円 | 124円 |
※ 各種開示資料に基づく概数。2026年3月期は会社予想(2025年11月時点で上方修正)。
業績の特徴と直近の動向
総資産は約59兆円規模で、生保業界では日本生命に次ぐ第2位の規模を維持している。経常収益は保有契約の減少に伴い緩やかに減少傾向にあるが、当期純利益は2026年3月期に向けて大幅な増益見込みとなっている。
増益の主な要因は、①新契約の初年度に係る標準責任準備金負担の減少、②運用環境の好転による順ざやの増加、③事業費の減少などである。2025年3月期には平均予定利率1.61%に対し利子利回り1.91%を確保し、1,425億円の順ざやを達成した。
株主還元も強化されており、2026年3月期の配当は1株124円(前期比+20円)を予定し、総還元性向は55%程度を目指している。自己株式取得も機動的に実施し、資本効率の向上を進めている。
6. 強み・競争優位性
(1) 圧倒的な販売ネットワーク
全国津々浦々に展開する約2万局の郵便局を販売チャネルとして活用できる点は、他の民間生保には決して真似のできない最大の強みである。地方部や高齢者層へのリーチ力は群を抜いており、長年にわたって培われた「郵便局ブランド」への信頼感が顧客接点を支えている。
(2) 業界トップクラスの資産規模
総資産約59兆円という巨大な資産規模は、業界2位を誇り、安定的な運用収益を生み出す基盤となっている。長期国債を中心とした堅実運用に加え、近年は外国証券や株式、オルタナティブ投資への配分も高めて収益力強化を図っている。
(3) 高い財務健全性
ソルベンシーマージン比率は1,000%を大きく超える水準を維持しており、保険金支払能力の健全性は極めて高い。また、危険準備金等の内部留保も厚く、市場変動に対する耐性も高い。
(4) 養老保険・学資保険における強いポジション
他社が積極的に販売していない養老保険を主力商品としており、企業の人事戦略への活用提案など、差別化された営業展開ができる。学資保険「はじめのかんぽ」も知名度が高く、安定的な顧客基盤を形成している。
(5) サステナビリティ経営の推進
ユニバーサルオーナーとしての立場から、インパクト投資(インパクト『K』プロジェクト)や脱炭素化に向けた投資ポートフォリオ運営など、ESG・サステナブル投資で金融業界をリードする取組みを進めている。
7. 課題・リスク
(1) 不適切販売問題からの信頼回復
2019年に発覚した、高齢者を中心とする顧客への不利益な乗換契約や保険料二重払いなどの不適切販売問題は、企業の根幹を揺るがす深刻な事案であった。法令・社内規定違反の疑いがあるとされた契約は20万件を超え、金融庁から3か月間の業務停止命令を受けた。背景には、過度な営業目標必達主義、コンプライアンス意識の欠如、低金利環境下での貯蓄性商品から保障性商品への急激なシフトなどがあった。
現在も「お客さま本位の業務運営」を最重要課題と位置付け、再発防止策の徹底、企業風土改革、コンプライアンス体制の強化に継続的に取り組んでいる。完全な信頼回復にはなお時間を要する段階にある。
(2) 保有契約数の減少と新契約獲得の難しさ
保有契約件数は2026年3月期第3四半期末で1,799万件と、前期末比4.3%減と減少が続いている。営業自粛の影響に加え、採用環境の悪化により営業社員数も減少傾向にある。新契約においても2026年3月期第3四半期は前年同期比48.2%減と大幅減少となっており、「早期の底打ち反転」が経営の最重要課題となっている。
(3) 低金利長期化による運用収益への影響
生保会社共通の課題として、長期にわたる低金利環境がある。直近では金利上昇基調にあるものの、過去の低金利期に取得した資産が運用利回りを抑制している。デュレーションギャップ(資産9.6年、負債10.9年)の縮小も継続的な経営課題である。
(4) 業務範囲規制と新規事業展開の制約
日本郵政グループの保有する金融2社の株式比率制限と関連する業務範囲規制により、新規業務への参入には制約がある。日本郵政の議決権比率を49.9%に低下させたことで規制は緩和されたが、依然として完全な民間生保と同等の自由度はない。
(5) 市場評価(株価バリュエーション)の改善
修正PBR(株価純資産倍率)は1倍が見えてきたものの、P/EV(時価総額÷EV)は0.5倍を下回る割安な水準にあり、市場評価の改善が継続課題となっている。
8. 今後の戦略・展望
次期中期経営計画の方向性
2026年度から始まる次期中期経営計画では、「成長戦略の3つの柱」と「それを支える5つの経営基盤の強化」に取り組み、ROE向上やPER向上による市場評価改善を目指している。日本郵政グループ全体としても、2025年11月に「次期中期経営計画の主要施策(骨子)」を策定済みである。
成長戦略の主要テーマ
● お客さま本位の業務運営の更なる徹底と、信頼回復の継続
● デジタルを活用したマルチチャネルの実現(リアルとデジタルの融合)
● 健康増進、介護・相続など新たな社会課題への対応商品・サービスの拡充
● 資産運用の深化・進化(イノベーション3.0)
● ガバナンス強化と機動的な株主還元の継続
● 企業風土改革・働き方改革による社員エンゲージメント向上
成長機会
超高齢社会の進展に伴い、医療・介護・相続といった分野での保険ニーズは今後も拡大が見込まれる。郵便局ネットワークを活用した高齢者層への到達力は、こうしたニーズに応える上で大きな武器となる。また、金利上昇局面では貯蓄性商品の予定利率引き上げによる魅力向上と、運用収益の改善が同時に期待できる環境にある。
9. 就職活動者向け情報
求める人物像
かんぽ生命は、お客さま本位の業務運営の徹底を最重要課題としているため、高い倫理観とコンプライアンス意識を持ち、お客さま一人ひとりに「あたたかさ」を持って接することのできる人材を求めている。チームでフォローし合う組織風土を大切にしており、コミュニケーション能力を活かして長期的な信頼関係を築ける人材を重視している。
働く環境
日本郵政グループの一員として、産休・育休制度の取得しやすさや、復職後の時短勤務サポートなど、ワークライフバランスを重視した制度が整備されている。子育てとの両立がしやすい環境として知られている。
主な職種
● 法人営業(企業向け養老保険等の提案)
● コンサルティング営業(個人顧客への保険提案)
● 商品開発、保険計理、リスク管理
● 資産運用(債券、株式、オルタナティブ等)
● コーポレートスタッフ(経営企画、人事、財務、IT等)
10. 総括
かんぽ生命保険は、簡易生命保険時代から100年を超える歴史を持ち、全国2万局を超える郵便局ネットワークという他社が真似できない販売チャネルを持つ、業界2位の総資産規模を誇る生命保険会社である。
一方で、2019年に発覚した不適切販売問題はその根幹を揺るがす深刻な事案であり、現在も信頼回復と「お客さま本位の業務運営」の徹底が経営の最優先課題となっている。新契約や保有契約の減少、人材確保の難しさ、市場評価の改善など、構造的な課題は依然として残る。
しかし、近年は運用環境の好転や事業効率化の効果もあり、業績は回復基調にある。2026年3月期の当期純利益は前期比28.8%増の1,590億円を見込み、株主還元も大幅に強化されている。次期中期経営計画では、ROE向上を軸とした成長戦略により、市場評価の改善を目指している。
超高齢社会における医療・介護・相続ニーズへの対応、デジタル化の推進、サステナブル投資のリーダーシップなど、社会的使命と企業価値向上を両立させる『あたたかみのある』生命保険会社としての独自性を発揮できるかが、今後の成長を左右する。日本郵政グループの中核企業として、社会インフラとしての役割と、収益性向上の両立に挑む同社の動向は引き続き注目される。
参考資料・出典
● かんぽ生命保険 公式ウェブサイト(会社概要、IR資料、中期経営計画等)
● かんぽ生命保険 2025年3月期決算短信、2026年3月期第2四半期決算短信
● かんぽ生命保険 中期経営計画(2021年度〜2025年度)見直し(2024年5月策定)
● 日本経済新聞、東洋経済オンライン、その他報道各社の関連記事
● マイナビ2026、マイナビ転職等の採用関連サイト
以上

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